歯医者でのX線(レントゲン)撮影は本当に安全?

・歯科のX線撮影も危険?

歯が痛くなると歯科に行きます。そこでは、必ずといってよいほど歯のX線(レントゲン)写真をとります。けれど、「体に害を及ぼす危険なX線を浴びて本当に大丈夫なの?」、と疑問をもつ方もいらっしゃるのではないでしょうか?

X線を浴びると、毛が抜けたり、失明したり、がんになってしまうのではと不安に思ってはいませんか?

戦時中に広島や長崎で、不幸にも原爆による放射線を浴びた人のなかには、そのようになってしまった方がたくさんいらっしゃいます。たくさんの放射線を浴びたほとんどの方が亡くなってしまいました。

X線も放射線の一つなので、浴びれば体になんらかの異常が現れるはずです。けれども皮膚が赤くなる、毛が抜ける、失明するといった症状は、確定的影響といわれ、ある程度以上のX線(しきい値)を浴びないと絶対に起こりません。

歯のX線撮影では、最大でも1回、約5ミリシーベルト(msv、svの千分の一)です。「皮膚が赤くなる」というのが最初の症状なのですが、これは2svで起こります。つまり、続けて約400回の撮影ということになり、歯のX線撮影ではこのようなことは絶対に起こりません。

白内障では5svがしきい値ですから、千回ということになります。また、撮影後に時間が経つと回復が起こるので、一生のうちで400回撮影しても安全です。

一方、放射線を浴びると、がんになるといわれています。放射線による発がんは、確率的影響といわれ、しきい値がなく、浴びた量に応じて、がんになる確率が高まってきます。

歯のX線撮影を1回行うと、理論上は、ある確率(約10^-7)でがんになって死に至ると見積もられています。これは一千万人がX線撮影を行うと、そのうちの一人がそうなるということを意味しています。

個人単位で考えるならば、無視することができるくらいのものです。

 

・妊娠している場合は?

妊娠している場合はどうでしょうか?胎児に影響が出るのは、胎児が100msv以上浴びた場合に奇形(小頭症)が起こります。歯のX線撮影では、そのような大きな線量はありえませんし、胎児に直接X線があたることもありません。

妊娠しているかどうかわからない場合はどうでしょうか?

着床前期(受精後9日まで)では、50msv以上で胎芽死亡が起こり流産しますが、これも歯のX線撮影で起こることはありません。しかし、胎芽や胎児が被曝することは望ましいことではないので、その時には、鉛入りのエプロンを使用すればより安全です。

 

・なぜ放射線は身体に害を及ぼすのか?

なぜ放射線は体に害を及ぼすのでしょうか。放射線が問題となるのは、電離させる力があるか否かということです。X線、可視光線(光)、電波などは物理学的には全く同じ電磁波です。

違いは波長が違うということだけです。X線の波長は光や電波と比べて非常に短いのです。X線、光、電波は実体がありません(質量がない)が、粒子として考えることができ、その時、一つの粒子のもつエネルギーがX線では非常に大きくなります。この結果、X線は電離を起こすことができますが、光や電波は電離を起こすことはできません。

電離とは、原子や分子中の原子核(陽子や中性子からできている)に束縛されている軌道電子を自由にさせることをいいます。この自由になった電子は、細胞核の染色体内にあるDNA(デオキシリボ核酸)にエネルギーを与えます。エネルギーは核の周囲の水に与えられることもあり、その時には水からラジカルが発生し、間接的にエネルギーを与えます。

DNAは、糖分子とリン酸塩とからなる結合群が二重ラセン構造を形成しています。この鎖にエネルギーが与えられると、切断されてしまいます。

しかし、DNAは遺伝情報を担っているので、修復機構をもっています。AとT、GとCがペアとなっているので、片側だけの切断の場合には、ペアの情報(Aがなくても、相手がTならば、Aの欠損と判断できる)により完全に修復できます。

ところが、両方の鎖が同時に切断される二重鎖切断の場合には、隣り同士のつながりがわからなくなってしまうので、不完全な修復となります。この不完全修復の状態により、細胞死、奇形、がん化などが決定されます。