むし歯でなくても歯は溶ける(酸蝕歯)

2012.5.5.朝日新聞土曜版 be 「元気のひけつ」の記事より一部抜粋

「ちゃんと歯磨きしているから大丈夫」なんて、自分の歯について安心していませんか。実は健康志向の人にも歯のトラブルが増えているそうです。どういうことなのでしょう。

 

定年後、ジョギングを始めた男性(62)は奥歯の痛みを訴えて受診。歯に小さなへこみがいくつもあり、表面のエナメル質に覆われているはずの象牙質が見えてしまっていた。聞くと、走ったあとに「体に良いから」と黒酢を飲み続けてきたという。「この症状は虫歯とは違い、酸蝕歯(さんしょくし)というものです」と、東京医科歯科大の北迫勇一助教。

「大人の患者には特徴があって、健康志向が強くて、まじめなタイプの人が多い」

むし歯は、お口の中の細菌が糖分を分解し酸をつくって歯を溶かす。一方酸蝕歯は食べ物や飲み物の酸が直接、歯を溶かす。肌のシミ対策にビタミンCをとろうと、グレープフルーツを毎日いくつも食べていた60代の女性は、歯の先が透けるほど薄くなってしまったそうだ。酸性やアルカリ性を示すpHは7が中性。7より小さくなるほど酸性、大きくなるほどアルカリ性が強い。

EPSON018.jpg

北迫さんらが市販の飲料120種のpHを調べたところ、黒酢飲料、スポーツドリンク、乳酸飲料オレンジジュースなどは酸性でpH3~4くらい。歯のエナメル質が溶けるとされるpH5.5より軒並み酸性が強かった。

牛乳はそれ自体は中性だがお口の中で細菌により乳酸が作られるため、安心はできない。お茶と水以外の飲料は要注意である。

日本歯科総合研究機構の石井拓男研究部長は「酸性のものを飲むこと自体が悪いわけではない。ダラダラと飲んで歯が酸にさらされる時間が異常に長くなるのが良くないのです」。

糖分が含まれていれば虫歯のリスクも高まる。毎日の食事でも口の中は酸性になるが、通常は唾液が中和し、とけたエナメル質を修復する『再石灰化』が起こるため、歯の健康は保たれる。しかし、酸性のペットボトル飲料などを四六時中チビチビ飲んでいると修復が間に合わない。対策としては、飲んだあとには水やお茶で口をすすぐこと。口の中にため込むように飲むクセがないかも見直そう。よくかんで食べ、唾液の出をよくするのも大切だ。修復する『再石灰化』にもっとも有効なのはフッ素である。フッ素入りの歯みがき剤や、フッ素ジェル、フッ素洗口剤(ブクブクうがい用)などいろいろあるので、歯磨き剤は成分をよく確認して使おう。

歯の健康は体全体の健康を左右する。厚生労働省の2005年歯科疾患実態調査では、80~84才で歯が20本以上残っている人(8020達成者)が初めて2割を超えた。今後の課題は残した歯の健康をいかにして守っていくかで、そのためには定期的な「お口のケア」が重要になってくる。